「せっかくお金を払ったんだから」
私たちは、ときどき、この言葉に引っ張られます。あまり使っていないサブスク。買ったけれど、今はほとんど使っていないもの。以前は必要だったけれど、今の自分にはもう必要なくなったサービス。「高かったから」「ここまで払ったから」「元を取らないともったいないから」そう思って、そのままお金を払い続けてしまうことがあります。
サンクコスト(sunk cost)とは?
心理学や経済学には、サンクコスト(sunk cost)という言葉があります。
sunkは「沈んだ」という意味。つまりサンクコスト効果とは、支払い済みのお金や時間、労力⇒(サンクコスト=埋没費用)を惜しんでしまう。それにより今後の利益より過去の投資に捉われ、合理的な判断ができなくなることです。
一度、海の底に沈んでしまったお金。それが「sunk cost」という言葉のイメージです。
そして私たちは、時々その沈んだお金を取り戻そうとしてしまいます。「ここまでお金を使ったんだから、続けなきゃ」「こんなに高かったんだから、使わなきゃ」「今やめたら、今まで払ったお金が無駄になる」
でも、ここで少しだけ立ち止まってみます。
そのお金は、もう沈んでいるのです。
今、解約してもしなくても。続けても、やめても。過去に支払ったお金は戻ってきません。でも、そんなときに一度、頭の中でこんな光景を思い浮かべてみてください。
海の中に、一枚のお札が沈んでいく。ゆっくり、ゆっくり。水面から遠ざかっていく。手を伸ばしても、もう届かない。「あのお金、取り戻さなきゃ」そう思って海の中へ入っていっても、そのお金は戻ってきません。
そしてもし、「せっかく沈んだんだから、もう一枚」と、さらにお金を海へ投げ入れたら……。
お金は、もう一枚沈んでいくだけです。
沈んだお金を救うために もう一度お金を沈めなくていい
たとえば、月1,000円のサービスを1年間使っていたとします。すでに12,000円払っています。「12,000円も払ったんだから、やめるのはもったいない」そう思うかもしれません。
でも今ここで解約したとしても、12,000円は戻ってきません。反対に、続ければ来月も1,000円を払うことになります。
その1,000円は、まだ沈んでいません。これから使うことのできるお金です。
貯めることもできる。別のことに使うこともできる。生活を少し楽にすることもできる。未来の自分のために残しておくこともできる。だから、「今まで払った12,000円を無駄にしないために、これからも払い続ける」必要はありません。
沈んでしまった12,000円を救おうとして、これからの1,000円まで海へ投げ入れなくてもいいのです。
「やめる」は過去を否定することではない
もちろん、だからといって、「今まで払ったお金は全部無駄だった」ということではありません。そのサービスを使って、楽しい時間を過ごしたかもしれません。何かを学んだかもしれません。
生活が便利になった時期もあったでしょう。そのときの自分には、必要だったのです。だから、過去の自分を責めなくてもいい。ただ、「あのときは必要だった。でも、今はもう必要ない」ということがあってもいいのです。
暮らしは変わります。家族も変わります。興味も変わります。年齢を重ねれば、お金の使い道だって変わっていきます。
昔の自分にとって大切だったものが、今の自分には必要なくなる。それは失敗ではありません。今の自分に合わせて、選び直しているだけです。
海から顔を上げてみる
サンクコストに引っ張られているとき、私たちは海の底ばかりを見ています。
「あのお金はどうしよう」「もったいなかった」「ここまで使ったのに」でも、本当に見たほうがいいのは、海の底ではないのかもしれません。
一度、顔を上げてみる。そして、「これからのお金を、どう使いたい?」と、自分に聞いてみる。
過去に沈んだお金は、もう選び直せません。けれど、これから使うお金は選べます。来月のお金も。来年のお金も。これから先のお金も。
まだ、私たちの手の中にあります。
「せっかく払ったから」ではなく「これからどうしたいか」
何かを見直すとき、「今までいくら払ったか」ではなく、「もし今日、初めてこれを知ったとしたら、私はお金を払うだろうか?」
と考えてみるのも一つの方法です。今日の自分なら必要だと思うだろうか。今の暮らしに役立っているだろうか。これからもお金を払い続けたいだろうか。
「やっぱり必要」と思うなら、続ければいい。「もう必要ない」と思うなら、やめてもいい。大切なのは、沈んだお金ではなく、これからのお金を基準に考えること。なのだと思います。
未来のお金は まだ沈んでいない
私たちは、過去のお金を変えることはできません。「あのとき買わなければよかった」「あの契約をしなければよかった」「あんなにお金を使わなければよかった」
そう思うこともあるでしょう。
でも、そのお金はもう海の底にあります。だから、ずっと海の底を見つめ続けなくてもいい。戻ってこないお金を取り戻そうとして、これからのお金まで沈めなくてもいい。顔を上げれば、まだ手元に残っているお金があります。
これから入ってくるお金があります。これから選べる使い道があります。そして、そのお金の行き先は、自分で決めることができます。
未来のお金はまだ選べる
過去のお金は沈んでも、未来のお金はまだ選べます。
サンクコスト効果について知るということは、「無駄なお金を減らしましょう」というだけの話ではないのかもしれません。
それは、過去に沈んだお金から、これからのお金を取り戻すこと。そして、これからのお金を、これからの自分のために使えるようにすること。なのかもしれません。
今日、もし「せっかく払ったから」という理由だけで続けているものがあったら。一度だけ、海の底を見るのをやめてみる。そして、顔を上げてみる。
そこにはまだ、これから自分で選べるお金が残っています。

