「まだ大丈夫」そう思っているうちに、気がつけば問題が大きくなっていた。お金のことに限らず、そんな経験をしたことがある人は少なくないのではないでしょうか。
特に老後のお金については、「何か困ったら、そのとき考えればいい」と思ってしまいがちです。けれど、老後は現役時代とは少し事情が違います。
収入が大きく増える可能性が限られたり、体力や時間に余裕がなくなったりすることもあります。だからこそ、困ってから考えるのではなく、困る前に相談することが大切になってきます。
では、なぜ人は「専門家に相談したほうがいい」と分かっていても、相談を先延ばししてしまうのでしょうか。そこには、行動経済学や心理学で説明できる、人間らしい心の動きがあります。
「まだ大丈夫」と思ってしまう「現在バイアス」
行動経済学には、現在バイアスという考え方があります。
これは、将来の利益や不利益よりも、目の前のことを大きく感じやすい傾向のことです。例えば、「専門家に相談したほうがいい」と思っていても、「相談するのは面倒」「予約するのが面倒」「相談料がもったいない」「まだ困っていない」という目の前の負担が気になってしまう。
すると、「もう少し先でいいか」となります。ところが、「もう少し先」が何度も続いてしまうと、気づいたときには問題が大きくなっていることがあります。
相談そのものを避けたいというより、今すぐ発生する小さな面倒を避けているうちに、将来の大きな問題を先送りしてしまうのです。
わが家の家人も、この習慣というか癖がありました。その為に失ったものは余りにも大きい。もしも家人に思い当たることがありましたら、そこに流されず、自分だけでも動いておくことが大切かもしれません。後に「あなたが納得しなかったから」と言っても年月は取り返しが尽きません。
「自分で何とかできる」が、悪いわけではない
ここは、とても大切なところです。自分で調べることも、自分で考えることも、決して悪いことではありません。むしろ、自分の生活やお金について知ろうとする姿勢は大切です。ただ、「自分でできること」と「自分だけでやること」は違います。
税金なら税理士。法律なら弁護士や司法書士。介護なら地域包括支援センターや介護の専門職。住まいなら住宅の専門家。お金なら、必要に応じて金融や家計の専門家、ファイナンシャルプランナーなど。このように、世の中には「自分だけで全部調べなくてもいい」仕組みがあります。
専門家に相談するというのは、自分の力を放棄することではありません。自分の判断材料を増やすために、人の知識を借りることでもあります。
「相談料」という目の前の損失が気になる
専門家に相談すると、費用がかかる場合があります。そこで、「数千円、数万円払うのはもったいない」と感じることがあります。これは自然な感覚かもしれません。
人は、得をすることよりも、損をすることを強く意識しやすい損失回避という傾向を持っています。そのため、「相談料を払う」という目に見える支出には敏感なのに、「相談しなかったことで、将来もっと大きな負担が発生するかもしれない」という目に見えない損失は、実感しにくいことがあります。
だからこそ、専門家への相談を考えるときには、「相談料はいくらか」だけではなく、「相談しないことで、どんな選択肢を失う可能性があるか」も一緒に考えてみる必要はあると感じます。
もちろん、すべての相談にお金を払う必要があるわけではありません。自治体などのでも各種無料相談や、公的な相談窓口もあります。まずは「どこに相談できるのか」を調べるだけでも、一歩になります。
「今まで自分でやってきたから」という心理
もう一つ、相談を遅らせる理由があります。「今まで自分でやってきたから、これからも自分でできる」という感覚です。これは、長年頑張ってきた人ほど持ちやすい考え方かもしれません。
これまで自分で家計を管理してきた。自分で税金を調べてきた。自分で家族のことを考えてきた。だから、今さら誰かに相談する必要はない。
でも、人生の状況が変われば、必要な知識も変わります。現役時代と退職後。健康なときと介護が必要になったとき。持ち家があるときと住み替えを考えるとき。家族が元気なときと、支援が必要になったとき。同じ人でも、必要になる情報は変わっていきます。
「今まで大丈夫だった」は、「これからも大丈夫」という保証ではありません。だからこそ、人生の節目では、一度専門家に確認してみる。それだけでも、思わぬ見落としを減らせることがあります。
「困ってから」ではなく「困る前」に相談する
老後のお金について、私はこの考え方がとても大切だと思います。
相談するのは、問題が起きてからでなくてもいい。むしろ、「まだ何も起きていないけれど、これからこういう生活を考えています」という段階で相談してもいいのです。
例えば、「退職後の住民税について知っておきたい」「介護が必要になった場合、どこに相談すればいい?」「家を売る・貸す・住み替える場合、何を確認しておけばいい?」「年金以外に、老後の生活費についてどんな選択肢がある?」
こうした疑問を、早い段階で一つずつ確認しておく。すると、いざというときに、「どこへ相談すればいいのか分からない」という状態を避けやすくなります。そしてそういう習慣を持つ事が大切です。それは、のちに何か問題が起こる前に動けるようになっていきます。
子どもに頼ればいい、だけではない老後へ
老後について考えるとき、「困ったら子どもに頼ればいい」という考え方もあります。もちろん、家族に助けてもらうことは悪いことではありません。家族だからこそできる支えもあります。
ただ、子どもにも子どもの生活があります。仕事があり、家庭があり、自分自身の人生があります。親の問題をすべて子どもが背負う形になれば、子どもの生活まで大きく変わってしまう可能性があります。
だからこそ、家族だけに頼るのではなく、専門家や公的な窓口、地域のサービスなど、頼れる場所を複数持っておく。これは、子どもを遠ざけることではありません。
むしろ、子どもにしか頼れない状態を作らないことで、親子それぞれが自分の人生を大切にしやすくなるのではないでしょうか。